ながら呆れ返る程の馬鹿で困る。お前には、畑やお金なぞをいくら分けてやったところで、どうせ直ぐに他人の手に渡してしまうに違いない。そこで私は、お前にこの銀の小箱をたった一つ遺してゆこうと考えた。この小箱の中に、私はお前の行末を蔵って置いた。お前が、万一兄さんと別れたりしてどうにもならない難儀な目に会った時には、この蓋を開けるがいい。そうすれば、お前はこの中にお前の生涯安楽にして食べるに困らないだけのものを見出すことが出来るだろう。だが、その時迄は、どんな事があってもかまえて開けてみてはならない。さあ、此処に鍵があるから誰にも盗まれぬように大切に肌身につけて置きなさい。……』
イワンの兄も、イワンも、決して不平は云いませんでした。
二人はただ父親の冥福を神に祈りました。
最早や思い残すことのない父親は、やがて、エンゼルの姿をした二人の息子に手をとられて色とりどりの麗わしい花園を歩いている夢を見ながら、天国へ去りました。
2
兄弟はよそ目にも羨しい[#「羨しい」は底本では「※[#「羨」の「さんずい」に代えて「冫」、95−16]しい」]程仲よく暮しました。
『さあさあ、イワンや、
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