は、は、は……』Y君は、自分がみじめなピエロに過ぎないことを感じた。
『それでは、まさか――』娘は眼を瞠った。
『そうです、野菊のように可愛らしい娘さん。僕の想いを寄せる女が、貴女の外にあって堪まるものですか! 神かけて、嘘ではありませんよ、僕のベアトリイチェ。……ごめんなさい。何てお呼びすればよろしいのでしょうか?』
『そうよ。ベアトリイチェ。……でも、あなた、どうして妾を知っているの?』
娘は白々とアーク・ライトに濡れながら、不意に泪ぐんだ。
『初め、あなたが、窓の日覆いを外そうとしていたところを、偶然通りすがって、見そめてしまったのですよ。僕は直ぐ夢中になる性分なんです。僕は毎晩のように、あなたの夢を見て、あなたの名を――「僕のいとしい女中さん」と寝言に呼んで、隊中の者から揶《からか》われました。……』Y君は、そんな風に云いながら、娘の肩に腕を廻した。
娘は鳥渡の間、傍を向いて、まるでひどく気を悪くでもしたかのような表情を浮かべたが、直ぐに肩をゆすぶらして哂《わら》った。
『窓の日覆いを外していたの? それ、ほんとに妾だったこと? 人違いじゃなくって? 大丈夫?』
『間違いあ
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