るもんですか。それから、僕は、あなたが、裏木戸のところで犬を呼んでいるのを見かけたことだってあるんですぜ。』
『まあ!――嬉しいわ。』
二人はそこで接吻をした。
例の辻君たちが通りかかったが、恋人同志だと気付くと、エヘン! と咳払いを浴せながら行き過ぎた。
二人は立ち上がった。
『妾の伯母さんの家へ行きましょう。何時でも帰れるように、妾のお部屋が別にあるの。ちっとも気兼ねなんか要らないわ。』
『たった今約束したばかりで、もうそんな真似をしてもいいのかしら――』Y君は遉にびっくりした。
『なあに? 誰がお泊んなさいって云って? ――可笑しい人ねえ。でも、大丈夫。泊めて上げてよ。』
Y君と娘は楽しく腕を組み合わせながら。公園を抜けると、空車を拾って乗った。伯母さんの家と云うのは、暗い山の手町にある下等な下宿屋の一軒だった。そこの狭い階段を娘に手を引かれながら上がる時、上の方から降りて来た病気持ちらしい醜い大年増が、すれ違いざまに娘の耳を引っぱって笑った。Y君はその女が、公園で最初の夜に、自分に云い寄った鴇色のリボンの女に似ているような気がしてならなかった。
『伯母さん?』
『ええ、
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