うす雪の夜の街燈

濠端犬つれて行く雪空となる

落葉拾うて棄てて別れたきり

こんな大きな石塔の下で死んでゐる

紺の香きつく着て冬空の下働く

あけた事がない扉の前で冬陽にあたつてゐる

きたない下駄ぬいで法話の灯に遠く坐る

冬川にごみを流してもどる

臼ひく女が自分にうたをきかせて居る

堅い大地となり這ふ虫もなし

ゆるい鼻緒の下駄で雪道あるきつづける

ふところの焼芋のあたたかさである

ひげがのびた顔を火鉢の上にのつける

にくい顔思ひ出し石ころをける

底がぬけた柄杓で水を呑まうとした
(底がぬけた杓で水を呑もうとした)

雪空にじむ火事の火の遠く恋しく

雀がさわぐお堂で朝の粥腹をへらして居る

犬よちぎれるほど尾をふつてくれる
(犬よちぎれる程尾をふつてくれる)

節分の豆をだまつてたべて居る

刈田のなかで仲がよい二人の顔

花が咲いた顔のお湯からあがつてくる

歯をむきだした鯛を威張つて売る
(歯をむき出した鯛を威張つて売る)

人を待つ小さな座敷で海が見える

夕の鐘つき切つたぞみのむし
(夕の鐘つき切つたぞみの虫)

夕飯たべてなほ陽をめぐまれてゐる
(夕飯
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