や短冊を吹く萩の風
夕暮を綿吹きちぎる野分哉
行く秋を人なつかしむ灯哉
寝て聞けば遠き昔を鳴く蚊かな
本堂に上る土足や秋の風
七つ池左右に見てゆく花野かな
風邪に居て障子の内の小春かな
いぬころの道忘れたる冬田かな
鶏頭や紺屋の庭に紅久し
別れ来て淋しさに折る野菊かな
山茶花やいぬころ死んで庭淋し
煮凝りの鍋を鳴らして侘びつくす
紫陽花の花青がちや百日紅
大木にかくれて雪の地蔵かな
あの僧があの庵へ去ぬ冬田かな
一つ家の窓明いて居る冬田かな
すき腹を鳴いて蚊がでるあくび哉
[東京時代]
明治四二(一九〇九)年、放哉は帝大卒業とともに日本通信社に就職したが、わずか一か月で退職。ついで、翌々明治四四(一九一一)年、東洋生命保険会社に入社。同じ頃に鳥取市・坂根寿の次女馨と結婚。
ひねもす曇り浪音の力かな
(ひねもす曇り居り浪音の力かな)
護岸荒るる波に乏しくなりし花
(護岸あるる波に乏しくなりし花)
海が明け居り窓一つ開かれたり
あかつきの木木をぬらして過ぎし雨
(あかつきの木々をぬらして過ぎし雨)
灯をともし来る女の瞳
海は黒く眠りをり宿につきたり
窓あけて居る朝の女にしじみ売
つめたく咲き出でし花のその影
休め田に星うつる夜の暖かさ
若葉の匂の中焼場につきたり
(若葉の香ひの中焼場につきたり)
今日一日の終りの鐘をききつつあるく
青服の人等帰る日が落ちた町
妻が留守の障子ぽっとり暮れたり
雪は晴れたる小供等の声に日が当る
小供等さけび居り夕日に押合へる家
芽ぐめるもの見てありく土の匂
(芽ぐめるもの見てありく土の香ひ)
日まはりこちら向く夕べの机となれり
口笛吹かるる朝の森の青さは
[京城・長春時代]
東洋生命保険会社に入社した放哉は会社員の生活になじめず、大正一〇(一九二一)年に退社。翌年、朝鮮火災海上保険会社に職を得て、京城に赴任。しかし、禁酒の誓いを守れずに約1年で退社、旧満州に移る。
土くれのやうに雀居り青草もなし
(土くれのやうに雀居り青草も無し)
風の中走り来て手の中のあつい銭
稲がかけてある野面に人をさがせども
何もかも死に尽したる野面にて我が足音
海苔をあぶりては東京遠く来た顔ばかり
長雨あまる小窓で杏落つるばかり
(長雨あきる小窓であんず落つるばかり)
昼火事の
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