れで必ず煙草をもつて私の部屋にやつて来るのです。そして、くだらぬ話をしたり、お茶を呑んだり煙草を吸つたりしてゴマ[#「ゴマ」に傍点]化して置くのですね。私も最初のうちは気が付きませんでしたが、たうとう終ひに露見したと云ふわけです。あんなに風の音[#「風の音」に傍点]を怖がる男は、メツタ[#「メツタ」に傍点]に私は知りません。それは見て居ると滑稽な程なのです。処が、此の男に兜を脱がなければならないことが、こんどは私に始つたのです。それは……誠に之も馬鹿げたお話なのですけれ共……私は由来、高い処にあがるのが怖いのです。それも、山とか岳とかに登るのではないので、例へば、断崖絶壁の上に立つとか、素敵に高いビルデイング[#「ビルデイング」に傍点]の頂上の欄干もなにもない其一角に立つて垂直に下を見おろすとか、さう云ふ場合には私はとても堪へられぬのです。そんな処に長く立つて居ようものなら、身体全体が真ツ逆様に下に吸ひ込まれさうな気持になるのです。イヤ[#「イヤ」に傍点]、事実私は吸ひ込まれて落ちるに違ひありません。と申すのは、さう云ふ高い処から吸ひ込まれて落込む夢を度々見るのですから。処が此Kです、
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