たよりに坐つて居るより外致し方がありません。こんな日にはお遍路さんも中々参りません。墓へ行く道を通る人も勿論ありません。風はえらいもので、どこからどう探して吹き込んで来るものか、天井から、壁のすき間から、ヒユーヒユーと吹き込んで参ります。庵は余り新しくない建て物でありますから、ギシギシ、ミシミシ、どこかしこが鳴り出します。大松独り威勢よく風と戦つて居ります。夜分なんか寝て居りますと、すき間から吹き込んだ風が天井にぶつかつて[#「ぶつかつて」に傍点]其の儘押し上げるものと見えまして、寝て居る身体が寝床ごと[#「ごと」に傍点]いつしよにスー[#「スー」に傍点]と上に浮きあがつて行くやうな気持がする事は度々のことであります。風の威力は実にえらいものであります。私の学生時代の友人にK……今は東京で弁護士をやつて居ります……と云ふ男がありましたが、此の男、生れつき風を怖がること夥しい。本郷のある下宿屋に二人で居ましたときなんかでも、夜中に少々風が吹き出して来て、ミシ/\そこらで音がし始めると、とても[#「とても」に傍点]一人でぢつと[#「ぢつと」に傍点]して自分の部屋に居る事が出来ないのです。そ
前へ 次へ
全47ページ中33ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
尾崎 放哉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング