せんので、大抵は海から吹きつける東南の風が多いのであります。今日は風だな、と思はれる日は大凡わかります。それは夜明けの空の雲の色が平生と異ふのであります。一寸見ると晴れさうで居て、其の雲の赤い色が只の真ツ赤な色ではないのです。之は海岸のお方は誰でも御承知の事と思ひます。実になんとも形容出来ない程美しいことは美しいのだけれども、その真ツ赤の色の中に、破壊とか、危惧とか云つた心持の光りをタツプリ[#「タツプリ」に傍点]と含んで、如何にも静かに、又、如何にも奇麗に、黎明の空を染めて居るのであります。こんな雲が朝流れて居る時は必ず風、……間も無くそろそろ吹き始めて来ます。庵の屋根の上には例の大松がかぶさつて居るのですから、之がまつ先きに風と共鳴を始めるのです。悲鳴するが如く、痛罵するが如く、又怒号するが如く、其の騒ぎは並大抵の音ぢやありません。庵の東側には、例の小さな窓一つ開いて居るきりなのですから、だんだん風がひどくなつて来ると、その小さい窓の障子と雨戸とを閉め切つてしまひます。それでおしまひ。他に閉める処が無いのです。ですから、部屋のなかはウス[#「ウス」に傍点]暗くなつて、只西側の明りを
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