に晩秋の庵……誠によい時節であります。毎朝五時頃、まだウス[#「ウス」に傍点]暗いうちから一人で起き出して来て、……庵にはたつた一つ電燈がついて居まして、之が毎朝六時頃迄は灯つて居ります……東側の小さい窓と、両側の障子五枚とをカラリ[#「カラリ」に傍点]とあけてしまつて、仏間と、八畳と、台所とを掃き出します。そしてお光りをあげて西側の小さい例の庭の大松の下を掃くのです。この頃になると電気が消えてしまひまして、東の小窓を通して見える島の連山が、朝日の昇る準備を始めて居ります。其の雲の色の美しさ、未だ町の方は実に静かなもので、何もかも寝込んで居るらしい、たゞ海岸の方で時折漁師の声がきこえてくる位なもの――。これが私のお天気の日に於ける毎日のきまつた仕事であります。全く此頃お天気の日の庵の朝、晩秋の夜明の気持は何とも譬へやうがありません。若しそれ、これが風の吹く日であり、雨の降る日でありますと、又一種別様な面白味があるのであります。島は一体風の大変よく吹く処で、殊に庵は海に近く少し小高い処に立つて居るものですから、其の風のアテ方[#「アテ方」に傍点]は中々ひどいのです。此辺は余り西風は吹きま
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