啼き声が、何とも云ふに云はれない淋しい気持をひき起してくれるのです。それは他の虫等のやうに、其声には、色もなければ、艶もない、勿論、力も無いのです。それで居てこの虫がなきますと、他のたくさんの虫の声々と少しも混雑することなしに、只、チーン、チーン、チーン……如何にも淋しい、如何にも力の無い声で、それで居て、それを聞く人の胸には何ものか非常にこたへるあるもの[#「あるもの」に傍点]を持つて居るのです。そのチーン、チーンと云ふ声は、大抵十五六遍から、二十二三遍位繰返すやうです。中には、八十遍以上も啼いたのを数へた……寝ながら数へた事がありましたが、まあこんなのは例外です。そして此虫は、一ヶ所に決してたくさんは居らぬやうであります。大抵多いときで三疋か四疋位、時にはたつた一疋でないて居る場合――多くの虫等の中に交つて――を幾度も知つて居るのであります。
瞑目してヂツ[#「ヂツ」に傍点]と聞いて居りますと、この、チーン、チーン、チーンと云ふ声は、どうしても此の地上のもの[#「もの」に傍点]とは思はれません。どう考へて見ても、この声は、地の底四五尺の処から響いて来るやうにきこえます。そして、チ
前へ
次へ
全47ページ中22ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
尾崎 放哉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング