と扇子とをもつて、御詠歌に合して踊るのであります。此島には未だ、この拍子木も、踊もはいつて来て居らぬやうでありますが、何れは遠からずしてやつて来る事でせう。然し、島の人々の信心深い事は誠に驚き入るのでありまして、内地ではとても見る事が出来ますまい。祖先に対する厚い尊敬心と、仏に対する深い信仰心には敬服する次第であります。慥か、お盆の頃の事でしたが、庵の前の道を、「此のお花は盆のお墓にあげようと思つて此春から丹念に作つて居りましたが……」など云ひ交しながら通つて行く島人の声をきいて居まして、しんみりとさせられた事でした。
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鉦たたき
私がこの島に来たのは未だ八月の半ば頃でありましたので、例の井師の句のなかにある「氷水でお別れ」をして京都を十時半の夜行でズー[#「ズー」に傍点]とやつて来たのです。ですから非常に暑くて、浴衣一枚すらも身体につけて居られない位でした。島は到る処これ蝉声|※[#「口+彗」、215−4]々《けいけい》。しかし季節といふものは争はれないもので、それからだんだんと虫は啼き出す、月の色は冴えて来る、朝晩の風は白くなつて来ると云ふわけで、庵も追
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