々と、正に秋の南郷庵らしくなつて参りましたのです。
 一体、庵のぐるり[#「ぐるり」に傍点]の庭で、草花とでも云へるものは、それは無暗と生えて居る実生の鶏頭、美しい葉鶏頭が二本、未だ咲きませぬが、之も十数株の菊、それと、白の一重の木槿が二本……裏と表とに一本宛あります。二本共高さ三四尺位で、各々十数個の花をつけて居ります。そして、朝風に開き、夕靄に蕾んで、長い間私をなぐさめてくれて居ります。まあこれ位なものでありませう。あとは全部雑草、殊に西側山より[#「より」に傍点]の方は、名も知れぬ色々の草が一面に山へかけて生ひ繁つて居ります。然し、よく注意して見ると、これ等雑草の中にもホチホチ[#「ホチホチ」に傍点]小さな空色の花が無数に咲いて居ります。島の人は之を、かまぐさ[#「かまぐさ」に傍点]、とか、とりぐさ[#「とりぐさ」に傍点]、とか呼んで居ります。丁度小鳥の頭のやうな恰好をして居るからださうです。紺碧の空色の小さい花びらをたつた二まい宛開いたまんま、数知れず、黙りこくつて咲いて居ます。私たちも草花であります、よく見て下さい――と云つた風に。
 かう云ふ有様ですから、追々と涼しくなつて
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