部屋の中に、二週間位も居たであらう。すると或日、小使がやつて来て、皆を連れて、怪我を治しに連れて行つてくれた。二三日もして、怪我も全快したので、又、寮へ帰つて、職務につく事になつた。
思ひ起せば、この事があつたのは丁度三年前、それから、二度冬を越して、又、二度春を向へたが、其間、或は、東寮に居つた事もあるし、南寮に居た事もある。小使部屋にも居つた。怪我も五六度やつた。が、まだ、人の死ぬる処は見た事がない。尤も、妙に思ふのは、俺が来た時に、一番胆をつぶした、ストームが、其後、何十回となくやつた性か、今では至極、愉快になつて来て、三日に一度位無いと、何となく物足らない気がする。従つて、生徒の中には、随分、昵懇な連中が出来た。尤も仲のいゝのは化物、狼、ニグロ、辨慶、幽霊、章魚なぞだらう。云ふ内、今夜でも、此の連中が来て、連れて行つてくれはしないだらうかと、心待ちに待つて居るのである。これで今日迄の「俺の記」は終りとする。
最後に、俺の名前も、既に解つたで有らうが、念の為に、人間が俺に付けてくれた名はランタンと云ふのだ、と云つて、そして筆を擱かう。 (終)
[#地から1字上げ]三十八年二月
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