でたのむよ」と、白頭が茶化す。「え、黙つて居ろ。君等も十人十色と云ふ事位は知つて居るだらう。要するに、十人十色とは「異」と云ふ事を通俗的に云つたものだ。「異」とは、即「異」で有つて「異なれり」だ。凡そ宇宙間に同じ物は一つもない。なに有る、何だつて、君と大頭とは同じ物だつて、よせ、馬鹿野郎!」白頭は笑ひながら曰くさ「それは笑談だが、実際、僕は有ると思ふ。近い処が、男と女とは同じものだ。夜と昼、天と地、美と醜、君の財布と俺の財布などは、皆同じ物だ。試に云はんだ、今世界に男と云ふ者が無かつたならば、如何なる者を女と云ふやだ。同じく女が無かつたら男も無い。要するに男と女は同じ物だ。美人と云ふのは醜人があるからなのだ。醜が無かつたら美は無い。美が無かつたら勿論醜もない。美醜こゝに於て一なりだ。君の財布と、俺の財布が同一物なる事は、君も知つてるだらう。要するに、親と云ふのは、子が有るから云ふので、子が無かつたら親は無い。親が無かつたら、無論、子は無い。即、子と親とは同一物だ。此所に於て、親の物は子の物なり、と云ふ推定に到着するのだ。も少し本を読んで来給へだ」、すると大頭、怒るまい事か「馬鹿云へ、そ
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