校に行くのは、生徒会員でなくとも、生徒会員であつても行くのだ。生徒会が無けらねば、学校へ行かないと云ふ奴は、余程の馬鹿では無いか。禁酒会員なるものは、意志薄弱会、とでも改名した方がいいだらう」。酒でも一杯飲みたいと云ふ顔付。此時、「ヲイ食堂があいたぞ」と云ふ者がある。此一声で、蜘蛛の子を散らす如く、小使部屋は見る間に寂寞としてしまつたのであつた。
 君等も、一度は小使部屋に這入つて見る可しだ。中々面白い事がある。だが、門衛の処も随分愉快だよ。全体、八時で禁出入とか云ふのださうだが、大嘘だ。九時になつても通る、十時になつても通る、十一時、十二時になつても出入するよ。なに、札なんか裏返すものか。門衛の奴も、余程、呑気な奴でなけらねば出来る商売ぢやないね。朝から晩まで、壁を眺めて居たり、小便をしたり、人形を書いて見たり、新聞広告を読んで見たり、それで、夜中に寝てから迄、起きて出て戸を開けねばならないなんて、目出度い奴さ。それで以て、時には、生徒に虐待せられる事も有るのだもの。さうだ昨年であつたか、或晩、十一時も既に打つてしまつたので、門衛君が今や門を閉ぢようとした時、ヒヨロリ/\と帰つて来たのが、生徒の奴さ、イキナリ「ヤイ門衛、俺の名を消せ、ケケケ消さぬか、野郎!」、門衛の、其のテカ/\した頭を、ポカリと御見舞申さうとした時、又、やつて来たのが一人の生徒さ。これは酒に酔つて居ないと見えて「ヤイ、待て/\、何だ」と、酔つて居た奴を抑へると、「放せ、放せつたら放せ、門衛の奴、自治の何たるかを解せない、見ろ、俺の名を消さんとぬかすのだ。かるが故に、一本ポカリと」、「まー待て、そりや君が悪いよ、大人しく帰つて寝ろ」、「何、俺が悪い、貴様も又、自治を解せないと見える。俺の言ふ処を暫く聞けだ。夫れだね、夫れ自治なるものは、一年や一年半、寮に居たとて、解る物ではない。少なくとも三年、多くは、四年居らんければ解らない。之を換言すれば、自治は無規則なり、規則無き也だ。而し、只之丈では、君見たいな一年級は、誤解を来すだらう。無規則とは、要するに之、一種の規則であるのだ。『規則が無い』規則と云ふ規則なのだ。抑、自治には三階級がある。第一は真正の自治だ。第二は半自治だ。第三は似而非自治と云ふのだ。勿論、自治の目的は、この真正の自治となる処にあるのだけれ共、到底、吾々は真正の自治と云ふ物を見る事は
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