と月夜のやうにあかるい毛なみよ、
さびしさにくひしばる犬は
おうおう[#「おうおう」に傍点]とをののきなきさけんで、
ほの黄色い夕闇《ゆふやみ》のなかをまひあがるのだ。
しろい爪をそろへて、
ふたつの犬はよぢのぼる蔓草《つるくさ》のやうに
ほのきいろい夕闇の無言のなかへまひあがるのだ。
そのくるしみをかはしながら、
さだめない大空のなかへゆくふたつの犬よ、
やせた肩をごらん、
ほそいしつぽをごらん、
おまへたちもやつぱりたえまなく消えてゆくものの仲間だ。
ほのきいろい夕空のなかへ、
ふたつのものはくるしみをかはしながらのぼつてゆく。


  林檎料理

手にとつてみれば
ゆめのやうにきえうせる淡雪《あはゆき》りんご、
ネルのきものにつつまれた女のはだのやうに
ふうはりともりあがる淡雪りんご、
舌のとけるやうにあまくねばねばとして
嫉妬のたのしい心持にも似た淡雪りんご、
まつしろい皿のうへに
うつくしくもられて泡をふき、
香水のしみこんだ銀のフオークのささるのを待つてゐる。
とびらをたたく風のおとのしめやかな晩、
さみしい秋の
林檎料理のなつかしさよ。


  まるい鳥

をんなはまるい
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