つた幹《みき》に春はたうとうふうはりした生きもののかなしみをつけた。
のたりのたりした海原のはてしないとほくの方へゆくやうに
ああ このとめどもない悔恨のかなしみよ、
温室のなかに長いもすそをひく草のやうに
かなしみはよわよわしい頼《たよ》り気をなびかしてゐる。
空想の階段にうかぶ鳩の足どりに
かなしみはだんだんに虚無の宮殿にちかよつてゆく。
輝く城のなかへ
みなとを出る船は黄色い帆をあげて去つた。
嘴《くちばし》は木の葉の群をささやいて
海の鳥はけむりを焚いてゐる。
磯辺の草は亡霊の影をそだてて、
わきかへるうしほのなかへわたしは身をなげる。
わたしの身にからまる魚のうろこをぬいで、
泥土に輝く城のなかへ。
銀の足鐶
――死人の家をよみて――
囚徒らの足にはまばゆい銀のくさりがついてゐる。
そのくさりの鐶《くわん》は しづかにけむる如く
呼吸をよび 嘆息をうながし、
力をはらむ鳥の翅《つばさ》のやうにささやきを起して、
これら 憂愁にとざされた囚徒らのうへに光をなげる。
くらく いんうつに見える囚徒らの日常のくさむらをうごかすものは、
その、感触のなつかしく
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