価しても評価しきれない貴重さが存する。
コテイーの香水のロリガン・エメロード巴里《パリー》なども、この表情を巧《たくみ》につくりあげてある。
アリスの「夜《よる》の花園《はなぞの》」「目を閉ぢて」「心のなかの愛」「最初の承諾」なども、全くこの表情を生かしてゐる。単なる花の香水、ジヤスマン、リラ、ローズ、ヒヤシンス、シプル、シクラメン等も、その表情がそれぞれ違つてくる。
同じホワイト・ローズでも、コテイーのと、ウビガンのとでは、その表情が非常に異つてゐる。「森林の香《か》」とか、オリエンタル・ブウケエなどは、比較的男性向な表情をもつてゐる。リラなどは、極めて低く一般的意味で若き婦人向の表情だ。
一体、表情といふのは、その香気が、あまい、かたい、やわらかい、にがい、くせがある。素直だ、強い、弱い、ふるい、新しい、あらい、こまかい、永く保つ、保たない、遠くへきく、遠くへきかない等といふ現実なものの見分け方の上に、更に、さういふ種々なものが綜合されて、ほのかに煙つてくる夢幻的感情の見分け方なのである。
だから、吾々は素人として「香水の表情」を見分けるには、闇のなかがよい、騒音の絶対に
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