愛せざりしか。君が唇のベルナルドオ[#「ベルナルドオ」に傍線]の額《ぬか》に觸れしをば、われ猶記す。君|爭《いか》でかベルナルドオ[#「ベルナルドオ」に傍線]を愛せざらん。思ふにかの無情《つれな》男子《をのこ》は君が色を愛して、君が心を愛せざりしなり。
アヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]は再び場に上りぬ。老いたるかな、衰へたるかな、只だ是れ屍《しかばね》の脂粉を傅《つ》けて行くものゝみ。われは覺えず肌《はだへ》に粟《あは》生ぜり、われもアヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]が色に迷ひし一人なれども、その才《ざえ》の高く情の優しかりしをば、わが戀愛に蔽《おほ》はれたりし心すら、猶能く認め得たりき。縱令《よしや》色は衰ふとも、才情はむかしのまゝなるべし。かへす/″\も惡《にく》むべきはベルナルドオ[#「ベルナルドオ」に傍線]が忍びて彼|才《ざえ》彼情を棄てつるなる哉。我心緒は此不幸なる女子を憐み、彼無情なる友を憎むが爲めに、亂るゝこと麻の如くなりき。傍なる紳士は、我面色の土の如くなるを見て、いかにし給ひしぞ、不快なるにはあらずやと問ひぬ。此|棧敷《さじき》の餘りに暑き故なるべし
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