ケしにはあらずやと疑はれぬ。隣席の紳士は我を顧みて、餘りに力を落し給ふな、單吟《ソロ》には稍※[#二の字点、1−2−22]觀る可きものなきにあらず、此組にも好き道化師《プルチネルラ》あり、大劇場に出だしても恥かしからぬ男なりなど云ふ。この時今宵の曲の女王は、侍姫《じき》に扮せる二女優と共に場に上りぬ。紳士眉を顰《ひそ》めて、さては女王は渠《かれ》なりしか、全曲は最早一錢の價だにあらざるべし、あはれジヤンネツテ[#「ジヤンネツテ」に傍線]ならましかばとつぶやきぬ。
女王は身の丈甚だ高からず、面《おもて》の輪廓鋭くして、黒き目は稍※[#二の字点、1−2−22]|陷《おちい》りたり。衣裳つきはいと惡し。無遠慮に評せば、擬人せる貧窶《ひんく》の妃嬪《ひひん》の裝束《さうぞく》したるとやいふべき。さるを怪むべきは此女優の擧止《たちゐ》のさま都雅《みやびやか》にして、いたく他の二人と異なる事なり。われは心の中に、若し少《わか》き美しき娘に此行儀あらば奈何《いか》ならんとおもひぬ。既にして女王は進みて舞臺の縁《ふち》に點《とも》し連ねたる燈火の處に到りぬ。此時我心は我目を疑ひ、我胸は劇《はげ》しき
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