アれを視るに、只是れ四奏の一組なりき。彼と云ひ此と云ひ、今宵の受用の覺束《おぼつか》なかるべき前兆ならぬものなけれど、われは猶せめて第一折を觀んとおもひて、獨り觀棚に坐し居たり。
 場内の女客に美しきはあらずやと左を顧み右を盻《み》しかど、遂にさる者を認め得ざりき。忽ち隣席に就く人あり。こは嘗て某《なにがし》の筵《むしろ》にて相見しことある少年紳士なりき。紳士は笑みつゝ我手を握りて云ふやう。こゝにて君に逢はんとは思ひ掛けざりき。君はその邊の消息を知り給ふか知らねど、かゝる處にては、折々面白き女客と肩を並ぶることあり。かくて薄暗き燈火《ともしび》は、これと親む媒《なかだち》となるものなりと云ひぬ。紳士の詞は未だ畢《をは》らぬに、傍より叱々《しつ/\》と警《いまし》むる聲す。そは開場《ウヱルチユウル》の曲の始まれるが爲めなりき。
 音樂は心細きまで微弱なりき。幕は開きたり、只だ見る、男子三人女子二人より成れる一《ひと》群《ホロス》の唱和するを。その骨相を看れば、座主《ざす》は俄に※[#「田+犬」、第4水準2−81−26]畝《けんぽ》の間より登庸し來りて、これに武士《もののふ》の服を衣《き》
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