`《ちしる》循《めぐ》らずして、温き血|環《めぐ》れるを人に示すべきなれ、我が世馴れたることのベルナルドオ[#「ベルナルドオ」に傍線]にもフエデリゴ[#「フエデリゴ」に傍線]にも劣らぬを示すべきなれ。兎も角も一たび此|場内《にはぬち》に入りて、美しき女優の面《おも》を見ばや。若し興なくば、曲の終るを待たで出でんも妨《さまたげ》あらじとおもひぬ。入場劵を買ふに、小き汚れたる牌《ふだ》を與へつ。我觀棚《さじき》は極めて舞臺に近き處なりき。
此劇場には高下二列の觀棚あり。平間《ひらま》をばいと低く設けたり。されど舞臺の小なること、給仕盆の如しとも謂ふべし。あはれ、此舞臺にいくばくの人か登り得べきとおもふに、例の小芝居の習とて、中むかしの武弁《ぶべん》の上をしくめる大樂劇の、行列の幕あり戰鬪の幕あるものをさへ興行するなるべし。觀棚は内壁の布張汚れ裂けて、天井は鬱悒《いぶせ》きまで低し。少焉《しばし》ありて、上衣を脱ぎ襯衣《はだぎ》の袖を攘《から》げたる男現れて、舞臺の前なる燭を點《とも》しつ。客は皆無遠慮に聲高く語りあへり。又|少時《しばし》ありて、樂人出でゝ奏樂席《オルケストラ》に就きぬ。
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