ン、默坐したるあるのみ。日は「マルクス」寺の星根の鍍金《めつき》せる尖《さき》と寺門の上なる大いなる銅馬《どうめ》とを照して、チユペルス[#「チユペルス」に二重傍線]、カンヂア[#「カンヂア」に二重傍線]、モレア[#「モレア」に二重傍線]等の舟の赤檣《せきしやう》の上なる徽章ある旗は垂れて動かず。數千の鴿《はと》は廣こうぢを飛びかひて、甃石《いしだたみ》の上に※[#「求/食」、第4水準2−92−54]《あさ》れり。
 われは進みてポンテ、リアルトオ[#「ポンテ、リアルトオ」に二重傍線]に到りて、いよ/\斯《この》土の風俗を知りぬ。ヱネチア[#「ヱネチア」に二重傍線]は大いなる悲哀の郷なり、我主觀の好き對象なり。而して此郷の水の上に泛《うか》べること、古のノアの舟と同じ。われは小き舟を下りて、この大いなる舟に上りしなり。
 日の夕となりて、模糊として力なき月光の全都を被《おほ》ひ、隨處に際立ちたる陰翳《いんえい》を生ぜしとき、われはいよ/\ヱネチア[#「ヱネチア」に二重傍線]の眞味を領略することを得たり。死せる都府の陰森《いんしん》の氣は、光明に宜しからずして幽暗に宜しければなり。われは
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