q亭の窓を開いて立ち、黒き小舟の矢を射る如く黒き波を截《き》り去るを望み、前《さき》の舟人の歌ひし戀の歌を憶ひ起せり。われは此時アヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]を恨みき。いかなれば彼佳人は我を棄てゝベルナルドオ[#「ベルナルドオ」に傍線]に奔《はし》りしぞ。こは誠實を去りて輕薄に就きしにあらずや。われは此時フラミニア[#「フラミニア」に傍線]をさへ恨みき。いかなれば彼|少女《をとめ》は我を棄てゝ尼寺に入りしぞ。こは情愛を去りて平和に就きしにあらずや。我胸は一種の言ふべからざる空虚を感じたり。我胸はあらゆる我を喜ばせしものとあらゆる我を慰めし者とを一掃して去らんと欲せり。然るにかく思議する間、終始我心目の前に往來するものは、可哀《かはゆ》きララ[#「ララ」に傍線]と罪深きサンタ[#「サンタ」に傍線]との面影なりき。われは蹣跚《まんさん》として階《きざはし》を下り、舟を喚《よ》びて水の衢《ちまた》を逍遙せり。二人の柁手《こぎて》は相和して歌ふ。其歌は古の恢復せられたるエルザレム[#「エルザレム」に二重傍線](ジエルザレムメ、リベラアタ)の調にあらず、大統領《ドオジエ》の族《うから》
前へ
次へ
全674ページ中577ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
アンデルセン ハンス・クリスチャン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング