オとおもふなり。憾《うら》むらくはおん身はその夜のさまを見給はざりき。その迎ふる情の熱さは我が送る情の熱きに讓らざりき。ジエンナロ[#「ジエンナロ」に傍線]が此詞は遂に我をして耐へ忍ぶこと能はざらしむるに至りぬ。我はいと冷かに、されどわが彼《かの》夕見しところは、いたくおん詞と違《たが》へりといひぬ。ジエンナロ[#「ジエンナロ」に傍線]は驚きたる面持《おももち》して、暫し我顏を打ち守りつゝ、何とかいふ、おん身の詞は解《げ》し難しと問ひ返しつ。われ重ねて、おん身の女子にもてはやされ給ふべきをば、われ露ばかりも疑はねど、彼夕はわれふと同じ處に落ち合ひてまことのさまを目撃したり、さればわれは始よりおん身の詞の戲言《ざれごと》なるべきを知りぬといふ。ジエンナロ[#「ジエンナロ」に傍線]は猶|訝《いぶか》しげに我顏を見て一語をも出さゞりき。われ微笑《ほゝゑ》みつゝジエンナロ[#「ジエンナロ」に傍線]が前夜の口吻を眞似《まね》て、おん身のけふ我に惜みて彼馬鹿者に與へ給ひし接吻を取返さでは歸らずといひたり。ジエンナロ[#「ジエンナロ」に傍線]の面は血色全く失せて、さてはおん身は立聞せしか、おん身は我
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