コに伏して、我唇をその冷《ひやゝか》なる石の足に觸れたり。憶ひ起せば、わがまだ穉《をさな》き時の心安かりしことよ。母の膝下《しつか》にて過す精進日《せじみび》は、常にも増して樂《たのし》き時節なりき。四邊《あたり》の光景は今猶|昨《きのふ》のごとくなり。街の角、四辻などには金紙銀紙の星もて飾りたる常磐木《ときはぎ》の草寮《こや》あり。處々に懸けし招牌《せうはい》には押韻《あふゐん》したる文もて精進食《せじみしよく》の名を列べ擧げたり。夕になれば緑葉の下に彩《いろど》りたる提燈《ひさげとう》を弔《つ》れり。雜食品賣る此頃の店は我穉き目に空想界を現ぜる如く見えにき。銀紙卷きたる腸詰肉を柱とし、ロヂイ[#「ロヂイ」に二重傍線]産の乾酪《かんらく》を穹窿としたる小寺院中にて酪《ブチルロ》もて塑《こ》ねたる羽ある童の舞ふさまは、我最初の詩料なりき。食品店の妻は我詩を聞きて、ダンテ[#「ダンテ」に傍線]の神曲なりと稱へき。當時われは不幸にして未だこの譽《ほまれ》ある歌人のいかに世を動かしゝかを知らず、又幸にして未だアヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]が如き才貌ある歌妓のいかに人を動かすかを知ら
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