tつにあらずば、此力以て世途の難を排するに足るとはいふべからず。試に此戀の前途を思へ。アヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]は尋常の歌妓に非ずして、その妙藝は現に天下の仰ぎ望むところなりと雖《いへども》、われ往《ゆ》いてこれに從はゞ、その形迹世の蕩子《たうし》と擇《えら》ぶことなからん。我友はこれを何とか言はむ。加之《しかのみなら》ず若し心術の上より論ぜば、我守護神たる聖母もこれよりは復《また》我を憐み給はざるべし。況《いはん》や此戀は果して能く成就せんや否や。我は口惜しきことながら、實に未だアヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]の心を知らざりき。我は寺に往きて聖母の前に叩頭《ぬかづ》き、いかで我に己に克つ力を授け給はれと祈りて、さて頭を擧げしに、何ぞ料《はか》らむ聖母の面《おもて》は姫の面となりて我を悦ばせ又我を苦めむとは。我は縱《たと》ひ姫再び來んも、誓ひて復た逢はじとおもひ定めつ。
我は嘗て古《いにしへ》の信徒の自ら笞《むちう》ち自ら傷《きずつ》けしを聞きて、其情を解せざりしに、今や自らその爲す所に倣《なら》はんと欲するに至りぬ。燃ゆるが如き我血を冷さんとて、我は聖母の像の
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