媒《なかだち》
士官のいふやう。この時よりして我がいかばかり戀といふものゝ苦を嘗めたるを知るか。我が幾たび空中に樓閣を築きて、又これを毀《こぼ》ちたるを知るか。我が彼|猶太《ユダヤ》をとめに逢はんとていかなる手段を盡しゝを知るか。我は用なきに翁を訪ひて金を借りぬ。我は八日の期限にて、二十「スクヂイ」を借らんといひしに、翁は快く諾《うべな》ひて粲然たる黄金を卓上に並べたり。されど少女は影だに見せざりき。我は三日過ぎて金返しに往きぬ。初翁は我を信ぜること厚しとは云ひしが、それには世辭も雜りたりしことなれば、今わが斯く速に金を返すを見て、翁が喜は眉のあたりに呈《あらは》れき。我は前の日の酒の旨《うま》かりしを稱へしかど、翁自ら瓶取り出して、顫《ふる》ふ痩手にて注ぎたれば、これさへあだなる望となりぬ。この日も少女は影だに見せざりき。たゞ我が梯《はしご》を走りおりしとき、半ば開きたる窓の帷《とばり》すこしゆらめきたるやうなりき。是れ我少女なりしならん。さらば君よ、とわれ呼びしが、窓の中はしづまりかへりて何の應《いらへ》もなし。おほよそ其頃よりして、今日まで盡しゝ我手段は悉くあだなりき
前へ
次へ
全674ページ中163ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
アンデルセン ハンス・クリスチャン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング