息を取られ給ふべし。さる時あらば、必ず我許に來給へ。利息は申し受けずして、いくばくにても御用だて侍らん。そはイスラエル[#「イスラエル」に傍線]の一枝を護りたる君が情《なさけ》の報なりといひぬ。我は今さる望なきよし答へぬ。翁さらに語を繼ぎて。さらば先づ平かに居給へ。好き葡萄酒一瓶あれば、そを獻《たてまつ》らんといふ。我は今いかなる事を答へしか知らず。されどその詞と共に一間に入り來りしは彼少女なり。いかなる形ぞ。いかなる色ぞ。髮は漆《うるし》の黒さにてしかも澤《つや》あり。こは彼翁の娘なりき。少女はチプリイ[#「チプリイ」に二重傍線]の酒を汲みて我に與へぬ。我がこれを飮みて、少女が壽《ことほぎ》をなしゝとき、その頬にはサロモ[#「サロモ」に傍線]王の餘波《なごり》の血こそ上りたれ。汝はいかにかの天女が、言ふにも足らぬ我腕立を謝せしを知るか。その聲は世にたぐひなき音樂の如く我耳を打ちたり。あはれ、かれは斯世のものにはあらざりけり。されば其姿の忽ち見えずなりて、唯だ翁と我とのみ座に殘りしも宜《むべ》なり。
 この物語を聞きて、我は覺えず呼びぬ。そは自然の詩なり。韻語にせばいかに面白からん。

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