り。こは都の習なる夕暮の逍遙《あそび》乘《のり》といふものにいでたる人々なるべし。銅版畫を挂《か》けつらねたる技藝品鋪の前には、人あまた立てり。その衣にまつはれて錢を得んとするは、乞兒《かたゐ》の群なり。されば車の間を馳せぬくることを厭ひては、こゝを行くべくもあらず。我が車の隙を覗《うかゞ》ひて走りぬけんとしたる時「ボン、ジヨオルノオ、アントニオ」(吉日《よきひ》をこそ、アントニオ[#「アントニオ」に傍線])と呼ぶは、むかし聞き慣れたる忌《いま》はしき聲なり。見卸せば、ペツポ[#「ペツポ」に傍線]のをぢ例の木履《きぐつ》を手に穿《は》きて、地上にすわり居たり。この人にかく近づきたることは、この年頃絶てなかりき。西班牙《スパニア》の磴《いしだん》を避けてとほり、道にて逢ふときは面を掩《おほ》ひて知らしめず、式の日などに諸生の群にありてこれに近づくときは、友の身を盾に取りて見付けられぬ心がまへしたりき。ペツポ[#「ペツポ」に傍線]は我|裳裾《もすそ》を握りて離たずしていふやう。血を分けたるアントニオ[#「アントニオ」に傍線]よ。そちがをぢなるペツポ[#「ペツポ」に傍線]を知らぬ人のやうに
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