ネあしらひそ。尊きジユウゼツペ[#「ジユウゼツペ」に傍線](ペツポ[#「ペツポ」に傍線]はこの名を約《つゞ》めたるなり)の上を思はゞ、我名を忘るゝことなからん。暫く見ぬ隙に、おとなびたることよ。かく親しく物言はるゝ程に、道行く人は怪みて我面を見たり。我は放ち給へと叫びて裾を引けども、ペツポ[#「ペツポ」に傍線]は容易《たやす》く手をゆるめず。アントニオ[#「アントニオ」に傍線]よ。共に驢《うさぎうま》に乘りし日の事を忘れしか。善き兒なるかな。今は丈高き馬に乘れば、最早我を顧みざるならん。母の同胞《はらから》の西班牙の磴にあるを訪はざるならん。そちも我手に接吻せしことあり。そちも我宿の一束の藁を敷寢せしことあり。昔をわすれなせそ。かくかきくどかるゝうるさゝに、我は力を極めて裾ひきはなち、車の間をくゞりぬけて、横街に馳せ入りぬ。
 我胸は跳《をど》れり。こは驚のためのみにはあらず、辱《はづかしめ》のためなりき。我はをぢがもろ人の前に我を辱めたりとおもひき。されど此心は久しからずして止み、これに代りて起りしは、これよりも苦しき情なりき。をぢが詞は一つとして僞ならず。われはまことにペツポ[#「
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