ノべ》の海より聞ゆる苦痛の聲は、我胸を衝《つ》きたり。われは「シモニスト」の群を見き。その浮き出でゝは、鬼の持てる鋭き鐵搭《くまで》にかけられて、又沈めらるゝを見き。ダンテ[#「ダンテ」に傍線]が敍事の生けるが如きために、其|状《さま》深くも我心に彫《ゑ》りつけられたるにや、晝は我念頭に上り、夜は我夢中に入りぬ。我囈語《うはごと》の間には、屡※[#二の字点、1−2−22]「パペ、サタン、アレツプ、サタン、パペ」といふ詞聞えぬ。こはわが讀みたる神曲の文なるを、同房の書生はさりとも知らねば、我魂まことに惡魔に責められたるかと疑ひ惑ひぬ。教場に出でゝも、我心は課程に在らざりき。師の聲にて、アントニオ[#「アントニオ」に傍線]よ、又何事をか夢みたる、と問はるゝ毎に、われは且恐れ且恥ぢたり。されどこの儘に神曲を擲《なげう》たんことは、わがなすこと能はざるところなりき。
 我が暮らす日の長く又重きことは、ダンテ[#「ダンテ」に傍線]が地獄にて負心《ふしん》の人の被《き》るといふ鍍金《めつき》したる鉛の上衣の如くなりき。夜に入れば、又我禁斷の果に匍《は》ひ寄りて、その惡鬼に我妄想の罪を數《せ》めらる
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