かないな。だがたしかな品物をうる店だってありそうなものだ。やれやれ。」と、助手はため息をつきながら、またかんがえつづけました。「なんでもたしかな品ばかり売るという店があるのだか、そこにはあいにくもう店番がいる。それがきずさ。こちらの店もあちらの店も「だんな、どうぞおはいりください」といいたそうだ。そこでかわいらしい「かんがえ」の精のようなものになって、あの人たちの胸のなかをのぞきまわってみてやりたい。」
 ほら、うわおいぐつにはもうこれだけで通じました。たちまち助手はからだがちぢくれ上がって、一ばんまえがわの見物の心から心へ実にふしぎな旅行をはじめることになりました。まっさきにはいっていったのは、ある奥さまの心で、整形外科《せいけいげか》の手術室にはいりこんだようにおもいました。これはお医者さまが、かたわな人のよぶんな肉を切りとって、からだのかっこうをよくしてくれる所をいうのです。そのへやには、かたわな手足のギプス型が壁に立てかけてありました。ただちがうのは整形病院では、ギプス型を患者《かんじゃ》がはいってくるたんびにとるのですが、この心のなかでは、人がでていったあとで型をとって、保存されることでした。ここにあるのは女のお友だちの型で。そのからだと心の欠点がそのままここに保存されていました。
 すぐまた、ほかの女のなかにはいっていきました。しかし、これは大きな神神《こうごう》しいお寺のようにおもわれました。無垢《むく》の白はとが、高い聖壇の上をとんでいました。よっぽどひざをついて拝みたいとおもったくらいでした。しかし、すぐと次の心のなかにはいっていかなければなりませんでした。でも、まだオルガンの音がきこえていました。そうしてじぶんがまえよりもいい、別の人間になったようにおもわれました。いばって次の聖堂にはいる資格が、できたように感じました。それは貧しい屋根裏のへやのかたちであらわれて、なかには病人のおかあさんがねていました。けれどあいた窓からは神さまのお日さまの光が温かくさしこみましたうつくしいばらの花が、屋根の上の小さな木箱のなかから、がてんがてん[#「がてんがてん」に傍点]していました。空色した二羽の小鳥が、こどもらしいよろこびのうたを歌っていました。そのなかで、病人のおかあさんは、むすめのために、神さまのおめぐみを祈っていました。
 それから、肉でいっぱいつま
前へ 次へ
全35ページ中20ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
アンデルセン ハンス・クリスチャン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング