配人とけんかだ。
そこでじぶんの身の上のこと、
たれしもこれが、いちばん気になる。
それはみえます――だがまあいえない、
いずれそのときにゃ、しぜんと分かる。
ここにはいるひと、たれがいちばんしあわせものか。
いちばんしあわせもの。そりゃあ、まあ、わかります。
さようさ、それは――いや、まあ、ごえんりょ申しましょう。
こりゃあ、がっかりなさる方がおおかろう。
では、どなたがいちばん長生きなさるか、
こちらの殿方か、あちらの奥さまか、
いや、こんなこと申さば、なおさらごめいわく。
すると、これか――いや、だめだ――あれか――だめだな、
さあ、あれもと――どうしていいか、さっぱりわからん。
なにしろ、どなたかのごきげんにさわります。
いっそ、皆さまのお心のなか、
それなら目がねも見とおしだ。
皆さん、かんがえていますね。いや、なにかのぞんでおいでかな。
くだらなすぎるというように。
きさま、あんまりばかばかしいぞ、
くだらぬおしゃべりもうやめろ、
それが一致のごいけんならば
はいはいやめます、だまります。
[#ここで字下げ終わり]

 この詩の朗読はなかなかりっぱなできで、演者は面目をほどこしました。見物のなかには、れいの病院の志願助手が、ゆうべの大事件はけろりと忘れたような顔をしてまじっていました。たれも取りにくるものがないので、うわおいぐつは相変らずはいたままでした。それになにしろ往来は道がひどいのでこれはとんだちょうほうでした。
 この詩を助手はおもしろいとおもいました。なによりもそのおもいつきが心をひきました。そういう目がねがあったらさぞいいだろう。じょうずにつかうと、その目がねで、ひとの心のなかをみとおすことができるわけだ。これは来年のことを今みるよりも、もっとおもしろいことだとかんがえました。なぜなら、さきのことはさきになれば分かるが、ひとの心なんてめったに分かるものではないのです。
「そこで、おれはまずいちばんまえの紳士貴女諸君の列をながめることにする。――いきなり、あの人たちの胸のなかにとびこんだらどうだろう。まあ窓だな、店をひろげたようにいろいろな物がならんでいるだろう。どんなにおれの目は、その店のなかをきょろきょろすることだろう。きっと、あすこの奥さんの所は大きな小間物屋にはいったようだろう。こちらのほうはきっと店がからっぽだろう。だいぶそうじがとど
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