のまま洗つてないので、黄色くなつてゐる浴衣《ゆかた》を着た。その上に、黒帯でウメ子を背負つた。
「一生、こんな村には帰つて来んぞ」
姪はかまどの煙の中から、どなり返した。
「さつさと失せろ! 顔見るのもイヤぢや」
駐在所では仙吉の帰つたのを知つてゐた。駐在所は地主の家に怒鳴りこんだ仙吉を取り押へる際に、彼のために、池ん中へ投げられた。そのしかへしは、彼を三ヶ月の間、S監獄に送つたのでは足りなかつた。村の若い連中をそそのかした。あんな旦那にタテつく社会主義の野郎は思ひ切りこらしめてやらにやならん。村の若い連中は仙吉を待ち伏せした。
池の側で仙吉は襲はれた。まだ朝の気が池の上をはつてゐた。ウメ子は柿の木の下に投げおろされた。草の露で彼女は濡れた。幾度も若者たちは怒声を発した。その度毎に仙吉の苦しさうな呻《うめ》き声《ごゑ》がきかれた。池の水は多くの波紋を作つて揺れた。若者たちが去ると仙吉は柿の木の下に来た。浴衣からは水が滴《したた》り、真青な頬からワナワナ震へる唇にかけて、小さい浮草が一面にくつついてゐた。裸体《はだか》になり、娘の横に彼も倒れた。そして、親と子は列んで泣きだした。
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