たちは十二時すぎまで仕事があるので、一時頃から三時前までもかかつて、協議して一円の値下を要求することに決めた。そして翌日は晦日《みそか》になつてゐるのだが、誰も払はずに、交渉を引受けた小肥りの映画説明者の返答を待つことになつた。ところが、翌朝早く、主人は部屋々々を起して廻つて部屋代を取立てた。誰か昨夜のことを彼に告げたものがあつたのだらうが、皆も申合せを忘れたやうに、主人の剣幕に恐れをなして払ふのであつた。そのくせ、お互ひにはそんなことをしたとは顔色にも出さず、知らぬ顔でゐた。――朝寝坊の説明者は次から次へとひつきりなしに電話に呼出されるので出て見ると、決定を裏切つたものたちが、実は昨夜あの仲間にはひると云つたが、あの時はすでに家賃は払つてあつたんで、と云つた風な見え透いた言訳を出先きからするのであつた。そこで説明者も独りでは力もないし、主人に憎まれても仕方がないと、彼も亦《また》、定額を支払つたのである。
――そんな彼らであるので、共同生活の訓練は少しもない。掃除番が順次に廻つてくるのであるが、炊事場でも、それから夏を除いては隔日に立てられる風呂でも、出来るだけ汚くしようとしてゐる
前へ
次へ
全38ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
武田 麟太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング