。「ぢや、何分よろしく尽力をお願ひする。今日はこれで失敬しよう、君も忙しいだらうから」と、何かまだ云ひたさうにしてゐる白足袋の指導者を残して、ひつこんで了つた。
指導者は支配人の顔色の随分悪かつたことを考へる。やはり、このやうに争議が大きくなつて来ると眠れないのだらう、と思ふ。そして、自分たちの力が足りないからこんな始末になるので、支配人は機嫌を害してゐたのではないかと心配になつて来るのである。もし、さうならば、事務員の職をくれると云ふ約束も危くなつてくるわけである。
――そこへ持つて来て、また二つの常設館が動揺しはじめたと報知がある。指導者はうろたへるのである。
暴力団との衝突の噂がひろがつて、警察で保護検束と、籠城解散を命じた。そのドサクサに、ダラ幹だけが残つてゐる交渉委員は解決へと急いで了つた。
云ふまでもなく争議は惨敗に終つてゐる。解雇手当は出さず、争議費用として金一封、勤続手当を一ヶ年について二ヶ月、以上一ヶ年毎に一ヶ月、と云ふ有様であつた。
ダラ幹たちは悲壮な演説をした。
白足袋の指導者は、深く意を決するところがあると云つて、平常の態度に似ず、蒼白の顔をして腰を
前へ
次へ
全38ページ中33ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
武田 麟太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング