だ、とにかくこの戦ひは、我々の死活を司《つかさど》るものである。最後まで頑張らう!」と云つて降壇したのである。
 彼らはできるだけ要求を縮めなければ、この不況時代には会社もきき入れることはできまいと、主張するのであつたが、ちやうどその時、江東の常設館が四つも一度に同情ストライキに入つたと報じて来た。そこで従業員の元気は盛り返して、どんなことがあつても今の要求のまま闘へ、と云ふ声が支配的になつてきた。
 白足袋の指導者のところへ使が来る。彼が争議団本部を抜け出して行つて見ると、それは会社の支配人だつた。
 この調子だと、浅草中のゼネストになるかも知れない、その前にゼヒ解決するやうに骨折つて貰ひたいと云ふ話なのである。
 指導者はニコニコ愛想よくしながら、そのためには、楽屋を占領してゐることを家屋侵入として主謀者をひつぱり、他を追ひ出す必要がある。それは警察の力を借りてもいいし、暴力団の撲り込みの噂を流布して、表方、女給の連中に恐怖心を起させ、主だつた連中は保護検束して貰つて、それから突然、襲撃するのがよろしからう、と説明するのである。――
 支配人は腕を組んで考へてゐたが、ふん、と云つた
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