団は楽屋を占領して、そこにこもつた。館では楽屋と舞台との通路をふさいで、閉場後は観客席に暴力団を入れて対峙《たいぢ》させた。
一方、七人の交渉委員は会社重役と会見する。三人の委員がそこで――「我々は」と口を開いた瞬間に検束される。と、他の四人は重役と待合に出かけて行く。重役は早く解決してくれれば、争議費用として諸君にもお礼しようと云ふ。そして、アメリカでは、トーキーも行きづまつて来たから、今度の争議も意味のないことになるだらう、解雇手当を二年分も要求してるが六ヶ月もすれば、もとのやうにサイレント映画になつて、説明者、音楽師も復業できると思ふ、と云ふ。白足袋の指導者は尤《もつと》もと考へて、この意見を大衆化しなければと決心する。
そして、次の夜の従業員大会で、彼は重役の意見をそのままにのべるのであつた。
すると、誰かが、莫迦《ばか》云ふな、トーキーは必然なんだ、しかし、我々の闘つてゐるのは、今まで我々を搾取《さくしゆ》して今になつて我々をわづかの涙金で追つぱらはうとする資本家なんだ、と叫んだ。
彼はすつかり憂欝になつた。しかし、持ち前の愛想よい態度で、その野次も受取つて、
「さう
前へ
次へ
全38ページ中31ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
武田 麟太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング