づれにしても、人間の精神が愚弄《ぐろう》されてゐるやうな憂欝が頭をもたげて来る。
 私は、手に入れたばかりの貨幣を哀しく思ひ、出来るだけ早く振り捨てたくなる。そして、それは意義のある使ひ方に適当してゐない、およそ下らない浪費にこそその使途を運命づけられてゐるやうなものだ。
 私の暮れの仕事は、かうしてはじめから蹉跌《さてつ》して了つた。私は、甚しく疲労|困憊《こんぱい》してゐるにも拘らず、最も不健康な消費面に沈溺して、その間中、敢《あ》へて他事を顧なかつた。よくも、肉体が持ちこたへられたものだと、あとで、不思議になつた位であるが、やがて寝呆け面で、れいによつて、浅草公園に近い木賃宿にぼそんとしてゐる自分を見出したのは、これほど私を敗頽《はいたい》させた不出来な仕事が終つてから、かなりの時間が経つてゐた。それまで、どこを転々として、何をしてゐたかと、朦朧《もうろう》として頭を捻《ひね》つて跡を辿ると、恥づべき所業だけしか手繰り得ないのもいつもの通りだ。我ながらいい気なものだし、腹が立つよりは、莫迦莫迦しすぎて、軽蔑したくなる。
 しかも、そんな場所で、徒らに帰らぬ悔恨に耽つてゐる間に、ま
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