いのだが、どうせ逃れられない運命とすれば、おぶさつて来るものをいくらでも引受けようと決心してゐる方が、悲壮でもあり、その満足感からはげみがついた。
仕事の出は、うまく滑り出したので、非常に悦んでゐた。と、中途から、調子が狂つて、意《おも》ひに委せなくなり、次第に私は渋りはじめた。さうなつては、つづけてゐるのに苦痛だけが残つて、大袈裟な絶望感さへ伴つて来る。永々と面白くもない時を費して、最後にやつと形をなすのは、気に入らないなぞと云う単純な失敗の不快さに終らない。歪《いび》つな仕事の結果は、私の全身心ともに醜くひん曲げて了ふ。私は、自分自身の比重がとれずによろめいて、それを情なく意識するので、よけい足許が危つかしくなるのだ。胸の中では、無数の瓦礫《ぐわれき》がつまつたやうに、索寞として音を立てて、あちらへ傾いたりこちらへ転がつたりする。次の仕事にかかるには、あまりすべてが雑然としすぎてゐる。
仕事に対して、私は当然の報酬を受取るのだが、かうした状態では、何か不正を行つて得た悪銭の感じがする。反対にまた、この苦悩の償《つぐな》ひとして払はれるには、安すぎるとの腹立しさもないでもない。い
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