見せて、
「――さア、これで今年もおしまひや、もうすぐ来年だつせ、けふは、夜通しで商売をしようかと思うたけど、割合に景気がよろしかつたんで、……それに、先生の病気もやつぱし心配やしな、早仕舞にして来ました、……」
「高等乞食」のそばにべたりと坐ると、浅草寺はじめあちらこちらの鐘が鳴りはじめた。
「――や、除夜の鐘や、そやそや、……うちの商売もんで、来る年の運勢を占うたげまひよ、それを途々考へて来たんや」
彼は立ち上つて、はい、はい、お狐さまと云ひながら、狐の檻を部屋に運び入れた。おみくじの沢山入れた筒を、その鼻先につきつけて、
「――お狐さま、どうぞ、お願ひ致しまつせ、吉凶を占つて下さりませ」
と、云ふと、狐はその一枚を咬《くは》へ取る仕掛になつてゐた。
「――さあ、病気は早よ快《なほ》るかどうか、お稲荷さんのお告げはあらたかなもんだつせ、さア」
彼は前置をして、仕事にかかつた。
「――お狐さま、どうど、お願ひ致しまつせ、吉凶を占つて下さりませ」
私は、あつ、それはと、とどめかけた。もしも、病気がもつといけなくなるとおみくじでも出たら、神経質になりがちの病人はどう思ふかと心配し
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