足もとを踏み越えて、小さな窓に乾すのであつた。
「――曇つてゐるな、雪空だ、これでは日光消毒にならんかね」
 と、独り言を云つて、
「――どら、出かけようぢやないか、……おい、天下の怠け者、起き給へ」
 彼は私の蒲団を剥ぎとつた。
「――なんだ、こんな関取みたいないい身体をしてをつて、働きに出ようともせん、……我輩がひとつ、どこか職を世話してやらうかね、……それにも及ばんかな、景気のいい軍需品工場なら、どこだつて、歓迎するだらう、……」
 私はにやにや笑つていた。
 老人は障子の外の、廊下の片隅に置いてある檻《をり》の狐に合掌して何か云つてゐた。よく聞くと、
「――ほんなら、これから、ちよつと外へやらして貰ひます、お狐さま、……暫く、御辛抱下さりませ」
 薄暗い中に、狐の光る眼が見えた。特有のたまらない悪臭が、廊下に一ぱい流れてゐた。
「――さア、出かけよう、君は、何が食ひたい、……さうだね、あまり贅沢なものはいかん、口がおごつて、癖になるからね、お稲荷さん、君は酒好きだから、先づ一ぱいはじめようか」
 元気よくしやべり立てる「高等乞食」のうしろから、我々はついて行つた。
 宿の主人は
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