、帳場で、宿帳の整理をしてゐたが、老眼鏡越しに、珍しく揃つて出て行く三人を不審さうに眺めてゐた。
私は相変らず、にやにや笑つてゐた。さうして、何かごまかしてゐる表情より、仕方がなかつた。
雪もよひの空は、暗澹として垂れさがつてゐた。人々はその下で、いかにも師走《しはす》らしく、動きまはつてゐるのだ。家々の表口には、すでに新春の飾物さへ見える。私は、ああ正月が来るのか、なぞとよそよそしく呟いて、沢山の人間にめでたい年を迎へさせねばならないのを、忘れてゐたかのように装つてみる。
何々食堂とか何々酒場とか云ふ、田舎訛《ゐなかなま》りの小女が註文された品を甲高《かんだか》い声で叫ぶ大衆的な店を飲み歩いて、三人は相当に酔払つてゐた。午前中からの、それもあまり性《たち》のよくない酒は、頭の皮と脳の間にたまつて、不快な限りであつた。狐つかひの老人は、悪酔ひして青くなり、足と腰をとられて椅子から倒れさうになつてゐるのに、尚も意地汚く口を尖らせて酒を吸ひ込むやうにしながら、盃を手離さなかつた。「高等乞食」に、見えすいたお世辞を使ひ、不自由さうな歯で、あれこれと食ひ物を云つては、もぐもぐ噛んでゐた
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