に御馳走しようと云ふのであらう。
「――そら、ほんまに結構な、ありがたいこつちやア、なア、あんた、……」
と、あちらの障子の方に臥《ね》てゐた老人はいかにもほくほくとして、私に呼びかけた。
「――折角、あない云うてくれはるんやさかい、一しよに御馳走にならうやおまへんか」
「――ははは、さうし給へ、腹をならしてるなぞ、見つともない、……出かける前に、ちよつと待つてくれ給へ」
「高等乞食」は、蒲団から飛び出ると、れいによつて洗面所へ身体を拭きに行つた。
「――あの方、お若いのに、なかなかよう出来たお人だすなア、――遠いところにゐる病人にちやんとする云うても、なかなか出来たこつちやおまへん、……偉いもんや」
狐つかひのおみくじ屋は、感心したやうに、丸い短い首を振つた。それから、声をひそめて、
「――あの調子やと、もう、お金もたんと貯めてやはりますで、……」
やがて、噂をされてゐる「高等乞食」は、えいつえいつと、頼りなく細い手足を小学生の体操みたいに屈伸させながら、戻つて来て、彼の正装に着かへるのだつた。
ズボンは正しく折目をつけて、蒲団の下に敷いてある。それを取り出して、蒲団は、私の
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