う、彼は稍々《やや》細い身体を反り身になつて豪放に笑ふのだが、途中で咳《せ》いて、苦しさうに身体を曲げたりした。姉や女房の病気が、彼の表現によれば、金を食ふ肺結核ださうだが、彼も明かに胸をやられてゐた。咳をするのはそのせゐで、しかし、彼はそれをも気取るためのきつかけにしてゐた。
高等乞食と云ふのは、死んだ父親の縁故のある政党員のみならず、あらゆる政治家、有名な官吏、実業家、俳優あるひは会社を訪れて、多少の無心をするのであつた。中には定期的にくれるやうになつてゐる位、顔を売つたと自慢してゐるが、
「――なアに、度々顔を出しては、何のかのと出鱈目の口実で小うるさく小遣銭をせびるんだが、……うるさいと感じさせるのが、こちらの附け目でね、少しやつて早く帰して了はうと、さう思はせるところが、こつ[#「こつ」に傍点]なんだよ」
と、私に述懐したことがある。そして、
「――暴力や脅喝《けふかつ》はいかんよ、絶対にいかん、……それは方面がちがふんだし、警察がうるさいからね、……個人で仕事をするなら、我輩の、柔よく剛を制す流でなくては、……」
力も度胸もなささうな彼の、もつともな云分であつた。
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