現代詩
武田麟太郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)解熱剤を服《の》んで
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)益々|蜻蛉《とんぼ》かきりぎりすみたいに
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、底本のページと行数)
(例)うとうと[#「うとうと」に傍点]して
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とにかく自分はひどく疲れてゐる。朝から数度にわたつて解熱剤を服《の》んで見るが、熱は少しも下らない。もつとも、この熱さましの頓服と云ふのは、銭惜しみする妻が近くの薬局で調合させた得態《えたい》の知れぬ安物なので、効き目なぞ怪しいのだらう。よけい頭ががんがんと痛むし、咽喉《のど》がつまつたやうでいくら咳《せ》いても痰が容易に切れない。不愉快である。さきほど、やつとうとうと[#「うとうと」に傍点]して眠りかけると母親が部屋に入つて来て起されて了つた。彼女は気兼ねして足音忍ばせ階段を昇つて来たのだが、安普請では自分でもびつくりするほどぎしぎしと軋《きし》むのだ。隣家の階段を歩く音さへ、こちらのことのやうに伝はるのだから仕方がない。物音を立て
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