ずくま》つて考へたり、立話をわいわいやつてゐた。小説家は、そのあたりが葱畑《ねぎばたけ》であつた時のことを、思ひ出してゐた。――
それらの浮浪者相手に僅かの商売をする露店が立つてゐ――魚の骨や頭を、野菜の切れ屑などと一しよに塩で煮込んだのやら――それは暖かさうに泡を立て、灰汁《あく》やうのものを鍋の表面に浮かべてゐたし、また、すし屋の塵芥箱《ごみばこ》から、集めて来たらしい、赤い生薑《しやうが》の色がどぎつく染まつた種々雑多の形の頽《くづ》れたすしやら――すべて、異臭を放ち、しかしその臭ひが宿なしたちには誘惑である食べ物を一銭二銭で売つてゐるのである。それらにまじつて、古道具屋が二三軒、店を――店と云ふならば、小さな薄べりを敷いて、庖丁、釘抜、茶碗、ズボン下なぞをならべ、浮浪者の拾得物なぞも買入れてゐた。中には一昨年の運勢暦が講談の雑誌と一しよに立てかけてあるのもあつた。さうした古道具屋の一軒では、主人が仔細らしく老眼鏡をかけて、脊の低い女が持つて来た風呂敷包を開いて、品物の値ぶみをはじめたので、要もない浮浪者たちはその店先をかこんで、何や彼やと品物の批評をしたり、おつさん、もつと出
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