、またしても、彼(女)が今まで本当は男であるのを発見されたこともなく、――また真実女であつて、その他の何ものでもないと、自分自身も永い間信じきつてゐたと云ふことで、縷々《るる》としてつきなかつた。彼(女)はその日常生活の末々端々にいたるまで女子として行動し――そして売春婦として存在することによつて、一家三人が第二愛知屋(木賃宿)に一部屋を借り受けてこの数年暮しを立てて来、もちろん、その弟で十四歳になるのも昨年あたりから女になつて、客をとることを覚え、彼らの母親はかなり楽になつたが、――
「やつぱり歳のすけないのは、骨がやはらかいし、肉もしまつてまへんよつてに、もうわてらと較べもんにならん位、よう売れます」と、感心して、彼は云つた。その弟が先日警察の手入れであげられ――そこで、肉体を発見され、釈放される時には、折角延ばして結つてあつた髪の毛を短く刈取られて了つた。――「早う生えてくれんと、商売でけしまへん、ほんまに無茶しよる」と、彼は憤慨して抗議した。「そんなことする罰は法律にはないさうだす」と、彼は知合の――同じく第二愛知屋に宿泊してゐる弁護士(!)に聞いたと云つた。色々と話の末、彼(
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