れてピカピカに光つてゐる女やら、――みんなすでに酔払つてゐて、頭を重く垂れ、時々あげてあたりを睨むと訳の分らぬ叫びをあげて会話し――一切が不健康に濁り、空気は淀んで腐つてゐるやうに見えた。小説家と女装の男とは、あいたところに腰をかけ、値段書のぶらさげてある背後の羽目板にもたれ急に冷くなつた足先を土間で踏みならしながら、店のものが大きなコップに焼酎をつぐ手許をぢつと見るのであつた。透明な液体は溢れて、木目のはつきりした汚いテーブルの上に流れると、女装は口を近づけて吸込み、舌なめずりするのである。更に彼は媚びるやうに小説家を見てから、艶つぽい声で店員に註文を発すると、豚の腎臓をそのまま薄く切つたのが塩を副《そ》へて持つて来られ、彼(女)は指でそのべろべろした血のかたまりみたいなものを、つまみあげて、彼に、
「どうだす、ひとつ」と云ふのであつた。――「ちよつと臭《かざ》がしますけど、通人の食べものだつせ」
 さうかも知れぬ。しかし、小説家は手を出すことをしなかつた。
 やがて、簡単に酔ひが身体に廻ると、昂奮して女装は、多弁になり、ハンカチを出して胸にあてたりして、口惜しがるのであつた。それは
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